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PERSIAN CARPET

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ペルシア絨毯情報

1.ペルシア絨毯の素材

ペルシャ絨毯の素材

page Contents

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1. ペルシャ絨毯の構成と素材

ペルシア絨毯は次の4つの構成要素から成る。

ペルシア絨毯の構成と素材

① 経(たて)糸 / Warp/ タール

絨毯の中心構造となる部分で、たて方向(垂直)に上から下まで張られる撚り糸のこと。この撚り糸は最初に織り機に張られる。絨毯が完成すると織り機から切り離され、先端部はフリンジとして処理される (フリンジが別に取り付けられる場合もある) 。経糸には羊毛、綿、絹が用いられる。

② パイル/ Pile /ポルズ(ゴルーク)

経糸に絡められて結びの集積となる色糸のこと。この色糸の毛羽により、絨毯の色柄が構成され、絨毯に弾力性が与えられる。この結び方にはトルコ結び(伝統的結び、ギオルデス結び、閉鎖型・左右均等結び)とペルシア結び(商業的結び、センネ結び、開放型・左右非均等結び)がある。パイル糸には、ウールあるいはシルクが用いられる。日本の緞通のように綿を用いるのは珍しい。

③ 緯(よこ)糸 / Weft / プード

たての撚り糸に対して直角に(水平方向に、横方向に)通される撚り糸で、織りの途中で経糸を縫うように差し込まれ組織を形成する。通常経糸と同じ素材が用いられることが多く、絨毯の裏から見ることができる。結びの列の間に通される緯糸の本数は越/シュートshootsと呼ばれ、その本数は産地によっても異なり、染めた糸が用いられることもある。一般的には、太い緯糸1-2本と細い緯糸1本が列毎に通されることが多い。

④ 耳/ Edge Finish(Selvedge) / バンデ・ケナーレ(シーラーゼ)

織りあがった絨毯の両サイドは、組織が痛みやすく、解けやすいので補強のため、かがり縫い、あるいは飾り耳の処理がなされ、別組織となることが多いこの部分は通常「耳」と呼ばれている。

2.ペルシア絨毯の素材の種類

絨毯の素材としては、羊毛、絹、綿のいずれか、あるいはその組み合わせが中心となっている。

 

①  羊毛/Wool /パシュム

絨毯は基本的に羊毛でできた織物であった。イスラーム社会では、羊毛は有徳の士が身にする織物として尊ばれ、その有用性とともに重視されてきた素材である。イラン高原の山間部で育てられた羊は、太くて強靭な羊毛を提供してくれるので、絨毯の素材としては最適である。とくに春から夏前に刈り取られる羊毛が良質であると言われている。羊毛にはさまざまな特性があり、それが絨毯にいろんな利点をもたらせてくれる。

② 和毛(にこげ) / Down / コルク

工房のペルシア絨毯などにコルクウール使用という解説がよく見られる。このコルクとは、羊や山羊、ラクダの柔肌に近いところに生えた柔らかいウールを指すペルシア語である。採取には櫛の歯に絡みついたものを集め、都市工房などの良質な絨毯のパイルとして用いられる。

③ 絹 /Silk /アブリーシャム

絹は独特の輝きと艶を有し、その華麗さから宮廷用の絨毯としても尊ばれてきた。蚕と呼ばれる特殊な蛾の幼虫がつくる繭から採取され、イランでも古くから産出し、主要輸出品でもあった。伝統的に絨毯づくりのための最上の絹はカスピ海周辺地域、ラシュト近辺からもたらされ、とくにソウマエサラーの絹が有名である。また絹はパイルだけでなく、経糸としてもよく使用される。これは、同じ直径のウールや綿の糸と比較すると、張力に抗してより強靭であるためで、都市の緻密な織りの絨毯には最適の素材となっている。もちろんオール・シルクの絨毯なら緯糸にも使用される。

④ 綿/ Cotton/パンベ

綿はアオイ科ワタ属の植物から採取される繊維で、主成分はセルロースである。綿繊維は絨毯づくりの重要な役割を果たし、経糸や緯糸にその使用の増加が窺がえる。綿の利点は虫に食われないことで、絨毯の経糸、緯糸に用いれば、その基礎組織が維持できるため、補修が利きやすいとされている。それにウールに比べて、張力が加わってもその伸びが少ないことでも、経糸には最適といえる。

⑥ その他の獣毛/wool, hair

英語のウールは必ずしも羊毛とは限らない。ヤギの毛やラクダの毛が遊牧民の絨毯を含む染織品に用いられることもままある。羊に限らず、柔らかくて細い毛はすべてウールwoolと呼ばれ、これが剛毛になるとヘアhairと呼ばれる。

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ルシア絨毯の素材の種類
経(たて)糸 / Warp/ タール
パイル/ Pile /ポルズ(ゴルーク)
 緯(よこ)糸 / Weft / プード
耳/ Edge Finish(Selvedge) / バンデ・ケナーレ(シーラーゼ)
 羊毛/Wool /パシュム
和毛(にこげ) / Down / コルク
絹 /Silk /アブリーシャム
綿/ Cotton/パンベ
その他の獣毛/wool, hair

3.羊毛 / wool

① 羊 /sheep/グースファンド/学名 Ovis aries

羊毛は羊から採取された毛のことであるが、現在羊は3,000種に及ぶといわれるほど、人の手により改良が加えられてきた。学術的分類で表現すると、動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・ウシ目・ウシ亜目・ウシ科・ヤギ亜目・ヒツジ属・ヒツジ(種)となる。家畜として飼育される前の羊は野生種であったが、今日の飼育種の原種として考えられているグループは次の3つである。まだ遺伝学的に特定されていないが、アジアムフロン原種説が主流となっている。

◆ムフロン Ovis musimon およびOvis orientalis

中近東の山岳地帯に生息する。比較的小さな羊で、雄の角はアモン角で湾曲して大きい。

◆ウリアル Ovis vignei およびOvis arkal

インドからイラン北部にかけての山岳、ステップ地帯に生息。アルガリの亜種ともいわれる。

◆アルガリ Ovis ammon およびOvis poli

中央アジアの山岳地帯を中心に生息。最大の羊で、小型の牛ほどある。角も湾曲して巨大。

 

これらの羊から家畜化が始まったが、食肉用とくに脂肪の摂取、そして採毛用である。多くの品種の中で最大のシェアを有する品種は、メリノ種である。このメリノ種は繊細な細毛が特徴で、原種は西アジア産だが、スペインで品種改良されたもの。南・西アジアではアワシ種が多く飼育されている。これらの羊は、伝統的には遊牧生活の中で飼育される。イランの場合は、わずかな牧草を求めて、移動する中で羊に食餌させながら生活を営むことになる。この生活形態も年々定住化の促進などにより減少しつつある。イランの子羊のウールは、メリノ種などに比べて太く、長さも38cmに達するものもある。

② 羊の史話

羊と人間の共存は古く、ざっと1万年ほど前に遡るとされている。旧約聖書の『創世記』のなかでも、アダムとイヴの二人の息子、カインとアベルにまつわる羊との関連が述べられている。それは、アベルは羊を牧う者、カインは土を耕す者で、神(ヤハウェ)は弟アベルが捧げた羊を「良し」とし、人類の悲劇が始まるという因縁である。思えば聖書には羊飼いに関連した逸話が数多く見られる。「迷える子羊」という字句もまさに牧師の導きを想定したものである。古代バビロニアは、ハンムラビ王時代(前1792-前1750)には採毛用と食肉用の羊がすでに飼育され、「羊毛の国」の語源ともなったといわれる。また貴重であった羊は、地中海世界へと伝わり、ギリシアで「黄金の羊」伝説を生み出した。神への犠牲である羊や生業であった牧羊にまつわる話は、ユダヤ教、キリスト教、イスラームに頻繁に語られるとともに、東洋でも羊という漢字から導き出されるエピソードには事欠かない。

③ 羊毛の特性

羊毛は独特の階層構造をもち、また、タンパク質繊維であることから、

次のような特性を有する。

◆弾力があり、保温性に富む。弾力性・保温性

羊毛繊維は、クリンプ(捲縮)しており、このクリンプが弾力性を生み、糸に膨らみをもたせる。この膨らみが、含気率を高め、保温性を向上させる。

◆湿気を吸収し、水を弾く。吸湿性(放湿性)・撥水性

羊毛繊維の表面は、疎水性で水を弾く一方、繊維内部は親水性であるため、吸湿性に富む。この性質が夏に湿気を取り、蒸れを防ぎ、肌にべとつかない快適感を与える。

◆型崩れやシワになりにくい。回復性

羊毛繊維はヤング率が大きい、すなわち負荷に対して変形しにくいという性向があるため、弾力性に優れ、もとの状態に回復しやすい。

◆フェルト化が起こる。縮充/縮絨・摩擦

羊毛繊維に熱と水分を含ませ、圧力を加えながら叩いたり揉んだりすると、繊維が絡み合って1枚の布(フェルト)になる。これはスケールの向きが逆のとき、ひっかかって滑らなくなるためである。この性質は絨毯のパイルや組織が摩擦力をもち、織り組織が分解しにくいことにも繋がる。

◆その他の特性

摩擦などにより、ピリング(ピル=毛玉)が生じる。蛋白質でできているため、アルカリに弱い。染まりやすい。白いものは日光で黄変する。虫害を受けやすい。難燃性である。…などの特性がある。

羊飼いの老人

3.羊毛
羊の史話
羊毛の特性
毛糸の制作
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羊の毛を梳くクルドの女性

④ 毛糸の制作

羊から毛を刈り、糸に紡ぐまではおよそ以下の工程となる。

 

◆羊毛の刈り取り(剪り取り) shearing

羊の毛は通常、年2回、春と秋に刈り取られるが、春に刈り取られたものが良質とされる。羊は、汚れやクローバーの実が毛にこびりついていることが多いので、櫛で梳かれ、鋏で刈り取る前に、石鹸か灰汁で洗浄される。食用にするため殺した羊から毛を取ることもあるが、スキン・ウールと呼ばれ、毛を毟り取り石灰水で処理されることが多く、粗悪とされる。

◆毛を洗う washing

刈り取られた原毛は、石鹸などを用い温水で洗浄され、ほぐして乾燥される。このとき揉むとフェルト化するので注意がいる。洗浄後はほぐしてから風通しのよいところで乾燥させる。

◆毛を梳く carding

原毛はまず微細な毛が一方向になるように梳かれる。これには、梳櫛(シャーネ・ミーク)と呼ばれる上部に櫛の歯が突き出た道具が用いられる。

◆毛を紡ぐ spinning

梳かれた原毛は、紡がれるが、伝統的に遊牧系は紡錘(つむ spindle ドゥーク、パッレ)が用いられ、定住系は、糸車(いとぐるまspinning wheel チャルフ、チャルハク、チャルヘ)を用いることが多い。糸車だと、仕事も速く、より均一な糸が得られ、同じ装置で糸を木管に巻き取ったり、2本の糸を撚り合わせるといった別の作業が可能である。このようにして紡がれた糸は綛(かせ)にして、次の工程へとまわされる。

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紡錘を用いて手紡ぎするガシュガーイーの女性

糸車で毛を紡ぐクルドの女性

4.絹

4.絹

シルクロードの語源ともなった絹は、西欧社会では神秘の繊維セレスとして珍重されてきた。

① 蚕/silkworm/ケルメ・アブリーシャム

学名 Bombyx mori

絹は動物性繊維に属し、絹の原料となる繭(まゆ cocoon ピーレ)をつくる蚕(チョウ目カイコガ科)の種類によって、家蚕絹と野蚕絹に大別される。家蚕絹は人類が数千年をかけて家畜化し、屋内での飼育を可能にした繭から採取されるもので、野蚕絹は野生の生息域から直接採取するきわめて希少な絹となる。イランのギーラーンやマーザンダラーンにおける一般的な家蚕の飼育は、春から始まる。蚕卵を購入し、数日かけて孵化させると1週間ほどで幼虫は脱皮を始める。桑を大量に与え、飼育すると2ヶ月足らずで、脱皮を繰り返して成長し、変態の過程で繭をつくり始める。蚕は口のあたりにある2つの小さな開口部から、非常に細い2本の単繊維物質を放出する。この単繊維はセリシンと呼ばれる粘着性の物質で覆われ、空中で乾燥する。この繊維が繭糸で、8の字を描きながら分泌され、繭を形成する。採取された繭は、熱風乾繭装置で殺蛹(さつよう)され、そのまま輸出される場合もあれば、国内用には製糸、精練されて市場に出回ることとなる。野蚕の繭は、繭を破って蛾が羽化するため繊維が切断されるが、家蚕では繋がった長い繊維(フィラメント糸)を得ることができる。

蚕/silkworm

シルクロードの中継地として重要な役割を果たしてきた中央アジア・ウズベキスタンの絹糸工場

この地を通って絹の製法は中東世界へ伝えられた

② 絹の歴史

シルクロードが、絹を東洋から西洋へ運んだルートであったことに表徴されるように、その発祥とされる中国では紀元前3千年紀、すでに養蚕は行われていたとされている。これは新石器時代にまで遡る夏王朝の伝説で、黄帝の后、西陵氏が絹の製法と織物を創始したというものと、さまざまな考古学的発見によるものが基準となっている。そして紀元前2世紀には、遠くギリシア・ローマ世界で絹の織物が高い人気を博している。中国における絹の製法は門外不出であり、玄奘は、中国の公主ルグザカ(Lu-si)が5世紀ホータン王に降嫁するとき家蚕の蚕種を持ち出したという蚕種西漸伝説を伝えている。また6世紀、ペルシア人(533年)あるいはセリンダの僧2人が杖に蚕卵を隠して持ち出し、ユスティニアヌス1世に献上したといった話も伝えられている。絹の製法は、ホータンからヤルカンド、フェルガーナ、そしてペルシアのカスピ海沿岸地方へと広まったものと考えられている。7世紀の初めには、ビザンティウムは自国産業およびヨーロッパへの輸出に足る十分な絹を生産することができたし、絹の製法はこの当時、おそらく世界中に広がっていた。

③ 絹糸の特性

絹も羊毛同様、蛋白質でできており、その構造から次のような特性をもつ。

◆美しい光沢をもつフィブロイン繊維が三角形であることは、プリズムと同じように糸の中で光が反射し、また内部に吸収された光も複雑な反射、屈折により表面に出るため、落ち着いた光沢となる。また絹は鮮明で深みのある色に染まる。フィブロイン繊維が蛋白質であり、構造的にも色素が浸透しやすく、種々の染料で染めることができるという優れた性質をもつ。

 

◆デリケートな繊維

絹はよく染まる一方、色の堅牢度はそれほど高くない。水滴などが繊維につくと、その部分の色が薄くなり、輪状のしみになる場合がある。「輪じみ」「色泣き」などと表現され、水分で撚りが戻り、色に変化が生じる場合もある。また摩擦や酸、アルカリにも弱く、日光に当たると黄変するなど、非常にデリケートな繊維といえる。

絹の歴史
絹糸の特性
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絹糸を撚り合わせる繰り糸職人/機械化された今日では、こうした風景は見られなくなっている。

絹糸の制作

④ 絹糸の制作

絹糸の準備には繭から生糸を生産する工程である「製糸」と生糸から練絹を得る「精練」の工程がある。

◆製糸工程

製糸の工程は、乾繭(かんけん)、煮繭(しゃけん)、繰糸(そうし)の作業から成る。乾繭は、熱風、赤外線などで蛹(さなぎ)を乾燥・殺蛹し、繭の長期保存を可能にする。煮繭は、繭から繭糸の糸端、すなわち「糸口」(いとくち)を見つけ、最後まで繭がほぐれるようにするために行う。高温水につけ、セリシンを溶解させ、7-8粒程度の繭の糸口を合わせて、繰糸機にかける。

◆精錬工程

フィブロイン繊維を覆っているセリシンは、4層ほどで構成され、どの層まで除去するかは、練絹の光沢や感触だけでなく、耐久性にも影響する。セリシンの溶解分離には、弱アルカリの石鹸を使用したり、高温高圧水や蛋白質分解酵素が利用されたりする。

 

◆絨毯用の絹糸

絹糸はイランでは次のようなランク分けがなされ、通常「綛」(かせ)にして売られている。

●ダーネ…最上級の絹糸で、主に絨毯のパイル用に使用 される。

●ハシュティー…中級品で、絨毯の経糸用に使用される。

●プーディー…下級品で、絨毯の緯糸用に使用される。

これらの絹糸の綛は、絹糸づくりの作業場で、絹糸の繰り糸職人によって必要な撚りを加えられる。通常、綛から大きな繰り枠へと巻き取られ、木管(きくだ)へ、そして糸枠へと順次巻き取るとともに、必要な本数の撚り糸をつくる。経糸用の絹糸の場合は、摩擦を減じ、損傷を避けるために、糊が施されることもある。

5. 綿

絨毯の組織糸として使用される綿

5.綿

綿花を摘む女性たち/中央アジア・フェナガル盆地 / インドあるいはアラビア原産地とされる綿が中国・朝鮮を経て日本に伝来したのは14世紀末のことといわれる。

① 綿/cotton/パンベ/学名 Gossypium spp

綿の原産地は熱帯ないし亜熱帯といわれるが、品種改良もあり、現在では温帯気候でも植え付けられ、北緯44度から南緯25度あたりの範囲で商業栽培されている。綿花は成長期には十分な水、成熟期にはギラギラと照りつける太陽の熱が必要で、平均気温20-30℃の地域が適する。綿はアオイ科のワタ属に属する植物で、元来、多年生草本であったが、現在ではほとんどが一年生草本である。ワタ属にはまったく繊維をつくらない種もあるが、繊維をつくる代表的な草本は次のとおりである。

◆ケプカワタ 学名 Gossypium hirsutum

原産地はメキシコまたはペルーといわれる。米国で品種改良され、綿花栽培可能地域ならどこでもつくることができる。発育期間が短く、気象条件をあまり問わず、紡績性にも優れた品種で、通常、アップランド綿(陸地綿)、アメリカ綿と呼ばれる。全世界で生産される綿の90%がこの品種で、繊維の長さは中長繊維に分類される。米綿(カリフォルニア綿、サンホーキン綿)、中国綿(タイプ129)、オーストラリア綿、旧ソ連綿、ギリシア綿などが、これに属する。

◆バルバデンワタ 学名 Gossypium barbadense

綿花全品種の中で繊維が最も長い。ペルー北部が原産地で、シーアイランド綿(海島綿)、エジプト綿、スーダン綿、中国綿(タイプ146)などの長繊維・超長繊維(ELS綿)のほとんどが、この品種である。

◆キダチワタ 学名 Gossypium arboreum

原産地はアラビアともインドともいわれ、前述した2品種とは系統的に異なり、繊維が太くて短く弾力のあるのが特徴である。現在は主にインド北部、パキスタンで商業生産されている。紡績用に用いられることは少なく、ふとん綿、脱脂綿、詰め綿などに用いられる。デシ綿とかアジア在来種と呼ばれ、明治初期まで日本で栽培されていた綿は、この品種に属する。

② 綿の歴史

人類が綿を使い出したのは古く、紀元前5000-2000年に、インドではキダチワタが、メキシコではアップランド綿が、ペルーではペルー綿が栽培されていたという。メキシコのテワカン渓谷で綿布の断片(紀元前5000年)、ペルーのカラル遺跡で綿繊維と綿の種(紀元前2600年)、インダス川のモヘンジョ・ダロで木綿の断片と紡錘車(紀元前2500-1800年)などが発見されている。中東地域には紀元前700年以前に綿は伝えられていたと考えられている。ペルシア語のキャルバース(綿織物)はサンスクリット語karpasaから、英語のcottonは、アラビア語のクトゥンqutnから派生したといわれている。紀元前3世紀頃、ギリシア世界では、インドにウールのなる木があると伝えられ、ドイツ語などでは綿は、バウムヴォレBaumwolle(木のウール)という言葉になった。中国へも10世紀には伝来しており、13世紀には広く使用されるようになっている。日本へは799年にインド系の崑崙人が三河に漂着し、綿の種を伝えたと『大日本史』にはあるが、これは日本の風土には適合せず、14世紀、朝鮮に伝わったものが日本にもたらされ、15世紀末になってから綿の栽培が広がったといわれる。江戸時代には温暖な三河や河内を中心に綿業が盛んになっている。

綿/cotton
綿の歴史
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綿糸の特性

③綿糸の特性

綿は吸湿性、吸水性がよく、通気性もあり、保温性にも富んでいる。湿潤状態で引張強度が増し、伸び率も少ないという特性をもつ。しかもリント繊維の約90%が炭水化物であるセルロースでできているため、虫に食われることもなく、丈夫で耐熱性が大きい。これらの利点に加え、比較的低価格であることから、都市では絨毯の経糸や緯糸の組織を形成する糸として用いられる。もし絨毯がダメージを被った場合でも組織さえ健在ならば、補修による回復は容易である。

④ 綿糸の制作

ワタの植え付けから、綿花の摘み取り、製糸過程はおよそ次のようになる。

◆植え付けから摘み取り

種播きは平均気温が15℃を超える時期が望ましいとされる。播種後10日前後で発芽し、およそ180日間前後の生育期間でコットンボール、綿花あるいは実綿の摘み取りが行われる。

◆綿繰り ginning

摘み取られた実綿は、ゴミを除去した後、種と繊維部分が分けられる。これを、綿を繰る、と表現する。ここまでが「棉」で、繊維として取り出されたものに「綿」という字を当てることもある。綿繰り車、あるいは綿繰り機にかけることはジンニングとも呼ばれる。この後、出荷先が遠方の場合は、繰り綿は圧縮され、「成俵」されて出荷される。

◆綿打ち carding

原綿はこの後、綿打ちを行って、ほぐされる。伝統的な綿打ちの道具としては、綿打ち用の棒と綿弓、槌である。綿弓の弦を振動させて綿をほぐすという作業である。解された綿は大きな球状に丸められ、紡糸工程へと運ばれる。

◆紡糸 spinning

羊毛と同じように、解された綿は、紡がれ、撚りがかけられる。絨毯の経糸用の綿糸は、小麦粉に麩/ふすま (ふすま)を加えて煮た糊を施すこともある。

綿糸の制作

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